日本刀は大戦中の日本でも、兵士の心の拠り所になりました。家に所蔵された刀の中から一つを選び、戦地に向かう時に持って行った若者もいました。戦後はそれらの刀の多くが行方不明になっていましたが、一部が海外に流出していることが分かり、買い戻される事例が続きました。所有していた若者の家族が連絡を受けてその刀を見に向かい、泣き崩れる例もありました。刀には亡くなった息子の思いが込められていると感じたのでしょうか、家族は必死にその日本刀を買い戻そうとしました。新しい所有者となっていた人はその様子に感銘を受け、無償で譲ったそうです。戻ってきた刀を家族がその後どのように扱ったのかは分かりませんが、きっと大切に保管したことでしょう。日本刀には人と人とを結び付ける力があるのです。ところで日本刀は贈答品として重宝されてきた歴史がありますが、実は故人に贈ることもあります。これは、日本刀の魔除けの力を信じての慣習と言われています。あの源氏物語にも、主人公が魔除けとして太刀を置いたというくだりがあります。故人には悪い霊が近寄ってくると信じる人は、例えば棺の上に刀剣類を置いて故人を守ろうとするのです。実はこの風習は特別なものでもなく、一般的な葬儀でも見られるものです。刀は葬儀のオプションとして利用することがほとんどですが、遺族が何らかの日本刀を所有している場合は、それが使われることもあります。